今年は本当に大規模な災害が多いですね。大変な思いをされている方も多いかと思います。停電が発生した場合に備えてかねてからずっと NAS を保護する為に導入を検討していた UPS(Uninterruptible power supply:無停電電源装置)をようやく購入しました。「コールドスタート」も可能な UPS を選んでおくと、急場しのぎの非常電源としても使用できるので、短時間のひかり電話の使用やスマホの充電くらいはできるようになります。少しは災害への備えの足しにもなるでしょう。
■ UPSの特徴について
UPS の電源出力には「正弦波出力」のものと「矩形波出力」のものがあります。矩形波出力の UPS の方が一般的に安いのですが、力率改善(PFC)回路を内蔵した電源との組み合わせでは問題(動作しなかったりコイル鳴きが発生したり)が生じることがあるそうなので、正弦波出力の可能なものを選んでおいた方が無難でしょう。
給電方式としては大きく分けて「常時商用給電方式」「ラインインタラクティブ方式」「常時インバーター方式」が存在します。このうち「常時インバーター方式」はデータセンター向けとされており、最も安定した電力供給が得られますが高価になってしまうので除外します。「常時商用給電方式」は通常時は商用電源をそのままスルー出力して非常時のみバックアップ運転に切り替える方式、「ラインインタラクティブ方式」はある程度の電圧変動を UPS 内部で補正しつつ閾値を超えた場合にバッテリ運転に切り換えるもので、バッテリ運転への切り替え頻度を下げることができるため、常時商用給電方式よりはバッテリー寿命を延ばすことができるそうです。
「常時商用給電方式」と「ラインインタラクティブ方式」では仕様上どうしても商用電源からバッテリー駆動に切り替わる際に「転送時間」分の「瞬断」が生じますが、最近の製品は 10msec 以内に収めているものが多いのでそのような製品を選べば気になることは無いでしょう。ちょっと乱暴ですが、それぞれの特徴をまとめると下の表のような傾向になると思います。
常時商用方式 | ラインインタラクティブ方式 | 常時インバーター方式 | |
---|---|---|---|
主な用途 | クライアントPC、周辺機器 | ルーター、周辺機器、クライアントPC | サーバー、ワークステーション、データセンター |
コスト・サイズ | 低コスト・小型軽量 | 比較的低コストで小型 | 高コスト・大規模なものが多い |
出力波形 | 矩形波が多い | 正弦波 | 正弦波 |
電力切替時の瞬断 | 瞬断あり(10msec程度) | 瞬断あり(5msec程度) | 無瞬断 |
電圧・周波数 | 商用電源の影響を受ける | ほぼ一定 | 常に一定 |
■ UPSの選定にあたって
購入にあたって以下を要件として設定しました。
① バッテリー容量が 300W・500VA 以上あること。
② インバーターから正弦波出力が可能であること。
③ NAS(Synology DS-218j)との連携が可能で交流電源喪失時に安全に自動シャットダウンさせ
ることが可能なこと。
④ バッテリー交換が可能であること。また交換済みバッテリーの引き取りサービスがある事。
⑤ 交流電源遮断時に単体でしばらくの間電源の供給(コールドスタート)が可能であること。
⑥ できれば本体に UPS の状態確認が可能なディスプレイが付いていること。
予算は 2万円程度です。価格と性能のバランス的にもこの辺りの価格帯が売れ筋になっているようです。
探し始めた当初は日本メーカーのオムロン製「BW55T」が良さそうだなと思って調べていたのですが、どうも Synology の NAS との連携に対応していないようです。オムロンの動作確認リストにも記載がありませんでした。「BY50S」なら恐らく大丈夫だと思うのですが、設計が古いこともあって非常に簡素な情報しか UPS に表示できません。
「SNMP(Simple Network Management Protocol)」というプロトコルを用いて LAN 経由で NAS などと連携を取れるタイプの UPS も存在しており、そのような機種が使えればかなり汎用性が高くなるのですが、残念ながらこの機能はかなり高価な UPS にしか搭載されていません。Yamaha のルーターや Synology の NAS は SNMP に対応しているので、こちらが使えれば最強なのですがね・・・。
設定した要件を考慮した結果今回購入したのは APC 製の「BR550SE-JP4W」です。どうやら期間限定モデルだったようですが、3年保証までの製品が多い中こちらは 4年間の保証が付いていることが決め手となりました。「BR550S」自体は現在でも入手可能です。
バッテリー容量は 330W/550VA、運転方式は「ラインインタラクティブ式」です。UPS のコールドスタートにも対応しており、出力波形も正弦波なので気兼ねなく機器を接続することが可能です。何の変哲も無い茶箱ですがかなりの大きさでした。鉛蓄電池が入っていることもあって 8kg近くの重量あり、思っていたよりずっしりしています。配送を頼まずに店舗で買って電車で持ち帰りだとちょっと大変かも知れないですね。
この手の製品はおおかた中国製だろうと思っていましたが意外にもフィリピン製でした。「ラインインタラクティブ式」の性質上バッテリー電源への切り替わり時に「瞬断」は発生しますが、転送時間は通常 6ミリ秒程度、最大でも 10ミリ秒とのことなのでほぼ問題になるような事はないでしょう。本体サイズは幅約 9.5cmx高さ約 19.5cm と正面から見た限りではたいしたことないのですが、奥行きが約 31cm+背面のコンセント接続部に数 cm必要になるので置き場所は予め考えて置いた方がよいです。
■ 製品登録と保証について
保証を受ける為には「Club APC」でアカウントを作成し、購入から 30日以内に製品の登録を済ませておく必要があります。この製品の場合、標準では 3年間の保証が付いていますが(2年保証となって若干安価になっているものもあるようです)、4年保証となっている製品を購入した場合は製品登録ページで製品シリアル番号を入力して検索を掛けると「製品保証延長サービス」を購入したという扱いになって(勿論追加料金は発生しません)4年保証の製品として登録出来るようになるので、後は購入日や所有者の情報を入力すればOKです。
「製品保証延長サービス証書」は「ご購入製品照会」のページから「サービス証書」を右クリックして「名前を付けてリンクを保存」で PDF としてダウンロード出来ます。なぜかブラウザに表示させた PDF を保存すると登録情報が記載されていないものが落ちてくるので上記の方法で保存するか印刷しておくとよいでしょう。
UPS を買い換える場合は「Trade-UPS」というUPS買い替えプログラムを利用することができます。これは新たに APC ブランドの UPS を購入した場合に今まで使っていた UPS をメーカーを問わず無料で引き取って処分してくれるサービスです。「Club APC」で購入した製品を登録していれば送料も無料となり、新しい製品を購入してから 3ヶ月間以内に申し込めばOKです。内蔵されているバッテリーも処分してくれるのでこれは有り難いサービスです。
また、将来的にバッテリー交換が必要になった場合は使用済みバッテリーの引き取りもしてもらえます(こちらは送料のみ負担の必要あり)。発送方法については「こちら」に記載されています。
それでは設置してセットアップしていきます。まずはバッテリーの接続を。
購入時はバッテリーは安全の為に内部で接続されていませんので、一度引き出してコネクタを接続してやる必要があります。本体を横倒しにして底にあるスライドカバーを開けたらバッテリーのベロを引っ張って少し引き出し、コネクタを接続したら元の状態に戻してやるだけです。ドライバーは必要ありません。
車のバッテリーを自分で交換したことのある人は分かると思いますが、接続する際はプラス端子を先に接続してからマイナス端子を接続するのが定石です(外すときは逆)。UPS の外装はプラスチック製なのでまあショートするような事はありませんが、大きな火花が出ることもありますのでこの手順は覚えて置いた方がよいかと思います。尚、バッテリー交換時は必ず本体をコンセントから抜いておくこと。横着して差したままの状態で行うのは非常に危険です。
バッテリーには寿命があります。一般に気温の高い状態では劣化しやすく、UPS のバッテリーの場合長寿命のバッテリーでも 35℃ の環境で 2年程度、適温とされている 5~25℃ の環境でも 4~5 年程度で蓄電容量が低下するなどして交換時期が来てしまうそうです。多くの UPS ではバッテリーの交換が必要になれば警告音や表示で報せてくれるようになっています。いざという時に使えないのでは困るので、これは必要コストと割り切るしか無いですね。
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鉛蓄電池が採用されている理由はやはり安全面とコストからでしょう。業務用の製品では長寿命の大容量リチウム電池を搭載した機種も増えつつあるようですが発火・発煙の可能性も捨てきれませんしまだかなり高価なようです。ただ、スマホやタブレットPCの普及からリチウム電池の性能はどんどん進化して安全性も高くなっていますのでそのうち普及価格帯の製品にもリチウム電池を採用した UPS が出てくるでしょうね。将来的には全固体電池を搭載した UPS なども期待したいところです。
バッテリーを接続し、電源ケーブルをコンセントに差し込んで商用電源に接続すれば電源スイッチを入れていなくても即座にバッテリーへの充電が始まります。付属の電源ケーブルは米国式の 3pin ですが、2pin への変換アダプタが付属しているのでそのまま家庭のコンセントに差し込むことができます。
本体背面にはバッテリー接続忘れ防止の為の黄色いシールがコンセント部分に貼ってあるので剥がしておきます。UPS に連動する「バックアップコンセント」と「サージ保護のみのコンセント」が 3口ずつ用意されています。コンセントは全て誘導雷などのサージ電流保護に対応しており、サージエネルギーレートが 1103 ジュールとのことなので以前購入した雷ガードタップの中で一番性能が良さそうだったオーム電機の「HS-A1234W」(720ジュール)よりも保護性能が高そうです。
表示部はシンプルですがなかなか分かりやすく出来ているなと感じました。本体正面右上のボタンを押す毎に現在 UPS に接続されている機器の負荷や入出力の電圧、バッテリー駆動時の起動可能時間の目安やバッテリー駆動に切り替わった回数などを切り替えて表示させることが可能です。インターフェースポートは RJ-45 コネクタですが、LAN への接続はできません。付属の RJ-45→USB Type-A 変換ケーブルを使って NAS や PC などと接続するためのものです。
試しに交流電源を遮断してみるとリレーの音と共に瞬時にバッテリー電源に切り替わりました。バッテリー運転時は 30秒ごとに 4回の警告音が鳴り、バッテリーの残量が僅かになると連続した警告音に変わります。警告音のON・OFFは可能ですが音量の調節は出来ないようです。かなり音がうるさいので、ここは調節できればよかったのですがね・・・。
停電時の蓄電池としての使い勝手もチェックしてみます。バッテリー駆動モードにして iPhone 8 と純正充電器を接続してみたところ、問題無くスマホに充電可能であることが確認出来ました。UPS のフル充電状態からスマホのみ接続した場合バッテリーの残量表示は約 460分となっています。また、バッテリー運転中は本体がそこそこ発熱します。コイル鳴きなどの異音は出ていません。
スマホの充電は満充電が近くなるとバッテリーへの負担軽減の為に充電速度を抑えて充電効率が落ちるようになっているので、80%程度の充電に留めるようにすれば 2~3回は充電できそうな感じでした。また照明器具も接続できるので、低消費電力の LEDランプなどを用意しておけばかなりの時間灯りを確保することも出来そうです。調理する際などはかなり役立ってくれることでしょう。
引き続き付属のソフトウェアを使った PCとの連携や UPS に接続した NAS との連携についてテストしていくことにします。