前から興味のあったスピーカーの自作に挑戦してみました。といってもエンクロージャーの設計などは出来ないので、ムック本の付録キットを組み立てて塗装しただけですけどね。
以前に「こちらの記事」で紹介したにした中古で買った Yamaha の「MCR-330」というマイクロコンポなのですが、付属のスピーカーに奥行きがあってかなり置き場所を選ぶのですよね。何か中古で見繕っても良かったのですが、以前に見かけたスピーカーの自作キットというのが面白そうだったので、ちょっと挑戦してみることにしました。
購入したのは「音楽之友社」から発売されている以下のキット 2点。両方買うと約 1.2万円ということで、安いスピーカーが欲しいだけであれば正直ヤフオク!などを探した方がいいです。綺麗に作ろうとすると他に色々と道具も必要になりますしね。でも「自作できる」という点に興味を惹かれません?(笑)
こちらのキット、毎年夏に発売されるのが恒例となっているそうです。小型にもかかわらず音が良いと評判も上々のようですね。過去にはフォステクスやパイオニアなどのスピーカーユニットがセットになっていたそうで、バックナンバーが見つかればまだ入手することも可能です。今年(2021年)はオンキヨーとコラボするそうですが、果たしてその頃までオンキヨーは残っているのでしょうか・・・。
■ キットの確認と準備
この手のムックにはよくあることですが、「付録こそが本体!」です。冊子自体はこの通りペラペラで、2冊合わせても 40ページしかありません。ただ内容は付録のスピーカーユニットの解説や作例などが載っており、それなりに楽しめるものになっていると思います。組み立て方法も写真付きで分かりやすく書かれていました。
2020年版のキットはマークオーディオ製の「OM-MF4」という 6cm フルレンジ・スピーカーユニット用に設計されています。マークオーディオ製のユニットを使ったキットはこのムックシリーズでは 2018年以降 3年連続の採用となるのだとか。
この「マークオーディオ」というメーカー、どうやら中国・広東省に本拠を構えているようですね。創業者はマーク・フェンロン氏で、元々は欧州のオーディオメーカーにユニットを供給していたそうです。日本ではフィディリティムサウンドという所が窓口になっている模様。こちらのユニットはヨドバシカメラや Amazon で入手出来るようになっており、そこそこの認知度もあるようです。
まずは「マークオーディオ製 6cm フルレンジ・スピーカーユニット」の方の付録内容の確認から。こちらだけを購入してエンクロージャーの方は完全に自作という方もいらっしゃるようですね。
スピーカーユニットのセットの他に取り付けねじ一式とスピーカーユニットとエンクロージャーの接する部分に貼るパッキン(パッキンは外周部分のみ使用)がセットになっていました。ユニットのインピーダンスは 8Ω。直径 40mm と小型のコーンの音圧レベルは 83.41㏈ で決して能率は高いとは言えませんが、振動板のストロークを 4mm と深く取っているため、小口径にもかかわらず 97.5Hz という低い共振周波数を出すことができるようになっているそうです。
こちらはエンクロージャーキットの方です。驚くことにこれだけの数のパーツが A4サイズ(厚みは 55mm 程ありますが)のムックに巧みに配置されて収まっています。この状態から元のムックに収まっていた形に戻してみようとしましたが、どこをどうやれば綺麗に収まるのか分からなくなってしまいました。ちょっとしたパズルですね(笑)。吸音材や配線用のパーツまで付属しています。
エンクロージャーの材質は MDF という、木材を蒸煮・解繊して繊維化させたものに合成樹脂を加え、圧力を掛けて固めた部材です。今回のようにスピーカーのエンクロージャーとして用いられることも多く、表面が滑らかで加工・塗装がしやすく安価であるという特徴を持っています。
上の写真は組み立てに向けて別途用意したものです。木工用ボンドは必須!作業のし易い 速乾タイプ のものが使いやすいでしょう。” ハタガネ ” は 1本しか持っていなかったので、接着剤が乾くまでの固定補助として 養生テープ を使いました。” ハタガネ ” でなくても F型クランプでも C型クランプでもいいですが、できれば 3個以上は用意して置いた方がいいですね。1本しか用意していなかった事をちょっと後悔しつつもわざわざ買いに行くのも・・・と思いながら作業していました。
スピーカーターミナルはプッシュ式のパーツが付属していたのですが、利便性も考えて共立プロダクツの「ATS-89111AG」というバナナプラグ対応のものに付け替えることにしました。
塗装は ワトコオイル などを使うのも良さそうでしたが、日本古来の天然塗料である「柿渋」を使ってみることにしました。昔の人はほんと凄いですね。この「柿渋」、防虫や防腐効果などもあるそうです。色合いは「柿渋染め」なんかで検索していただければイメージが掴めると思います。更に紫外線などと反応するらしく、時間が経つと徐々に色合いが濃くなっていくという変化も楽しむことができます。
欠点はちょっと独特の臭いがします。どういう臭いかと言うと、秋口に公園などを散策していると雨に濡れた落ち葉などがある場所で薫ってくるあのちょっとムッとした臭いです。ただ、乾いて数日もすればほとんど臭わなくなりますし、どうしても臭いが駄目だという方は「無臭柿渋」というものもあるのでそちらを使うのもいいかと思います。
他には塗装用の刷毛、鋸ヤスリ(段差などが出来てもゴリゴリ削れます)、仕上げ用の紙やすり(#80 と#400)、雑巾などを用意しました。
■ いざ!組み立てへ!
エンクロージャーの側板内側にはパーツを接着する際に分かりやすいようにガイドの溝が掘られているのですが、接着を始める前に一度仮組みしてイメージを掴んでおくのが良いでしょう。
イメージを掴んだらまず 1組に付き L字のパーツを 2種類、T字のパーツを 1種類、ガイド溝の掘られた側板にフロントバッフルを接着したパーツを作っていきます。この時きちんと接合部に垂直がでるように気をつけて下さい。後々の工作精度に大きく影響してきますので・・・。適宜クランプやハタガネなどを使ってしっかり接着しておきましょう。ハタガネを 1つしか用意していなかった後悔は既にこの時点から始まっていたのでした(苦笑)。
ある程度乾いたらこの段階でエンクロージャーの内部になる部分を軽く塗装しておきました。取りあえずはバスレフポート付近だけ塗装してしまえば完成した時に「バスレフポート内部と色が違う!」ということにはならないのですが、柿渋には防腐・防虫効果もあるということなので一応内部全体にも塗っておきました。まあほぼ見えない部分になるので ” 捨て塗り ” ですが。
側板のガイド溝に沿って先ほど組んでおいたパーツを配置していき、内部の天板とスピーカーユニットの背後にあたる部分に吸音材を貼り付けます。このエンクロージャーは「ラビリンス・バスレフ型」という構造になっていて、「ラビリンス」という名称通りにスピーカーユニット背後から出る音を長い迷路のようなキャビネットを通らせる事で低音部に厚みを持たせ、コンパクトさを維持しつつも誇張感の無い自然な低音を効果的に引き出す働きを持っているそうです。
付録の内部配線材には作業し易いように「ファストン端子」という自動車の配線なんかでよく使われている端子が予め取り付けられているのですが、付け替えるスピーカーターミナルの接続部と大きさが異なっていてそのままでは取り付けられませんので、先っちょをちょん切って直接ハンダ付けすることにしました。ハンダは以前ヘッドホンケーブルを作った際に余っていた オヤイデ の SS-47 を使用しています。
道具の用意の所で書いた通り、ハタガネを 1つしか持っていなかったので、養生テープと重しの辞書タワー(笑)を使って固定しながら少しずつ隙間に木工ボンドを流し入れてはハタガネをずらしてキャビネットの圧着を行っていったため、かなり時間が掛かりました。
外側に若干段差が出来ているところがあったので、鋸ヤスリで成型し、紙やすりを掛けて仕上げました。MDF は本当に加工が楽ですね。ゴリゴリ削れてあっという間に段差は無くなりました。写真では分からないと思いますが、仕上げに #400 の紙やすりを掛けたのでエンクロージャーはツルツルになっています。やはりハタガネなりクランプなりをもっと沢山用意していれば随分作業効率が良くなったでしょうね・・・。
ペットボトルの下部を切り取って塗料の容器を作りました。これだと作業が終わったら捨てることもできるので便利です(笑)。塗装に使ったこの「柿渋」ですが、長期保管には向きません。残ったものは容器に密閉していても発酵が進んでゲル化してしまいます。水飴状にドロッとした状態までであれば水を加えて沸騰させることで液状に戻るようですが、鉄系の鍋を使うとタンニンと反応して鍋が黒くなってしまうので注意して下さい。(この反応を利用する方も居るそうです。)
一度目は用法に書いてあるとおり 2倍程度に希釈した柿渋を塗りましたが、MDF はかなり水分を吸収してしまうようです。一旦乾かして紙やすりを軽く掛けた後、原液のまま更に 2度塗りしました。MDF に木目などあるはずも無いのですが、使った刷毛が古くて固くなっていたこともあって木目のようなムラができましたが、かえってこの方がいい気がしたのでわざとムラが出るように塗ってみました。
塗装が乾いた後は乾いた雑巾で磨いてみたところ、段々と艶が出てきていい感じになりました。時間が経てば色も濃くなって更に渋みが増してくるでしょう(柿渋だけに・・・w)。上から仕上げに 蜜蝋クリーム を塗り込むのも良いようですね。
スピーカーユニットとエンクロージャーの接する部分に付属のパッキンを貼り付け、極性に注意しながらユニットを取り付ければ一応の完成です!MDF はネジを締めすぎるとすぐにバカになってしまうので注意です。完成したスピーカーユニットのサイズは、約 100(W)x200(H)x140(D)mm。この程度のサイズであればそれこそどこにでも置くことが出来ます。
早速 Yamaha の「MCR-330」に繋いで試聴してみました。こちらの写真は完成から 2ヶ月ほど経った状態のものです。塗装直後に比べて柿渋の色合いにも随分深みが出てきました。 さすがにこのサイズですから重低音を期待するのは無理というものですが、それでも設計者のマーク・フェンロン氏の言っていたとおり、サイズからは想像できない程にちゃんと鳴っています。特徴的なバスレフポートもきちんと機能しているようですね。ピアノ弾き語りなんかはなかなかの聴き心地です。
とにかく非常にコンパクトで邪魔にならないので、キッチンなんかに置いて料理を作りながら音楽を聴いたり適当な小型の中華アンプなんかと組み合わせてノートPC のスピーカーにしたりするのもいいんじゃないでしょうか。今回使用した「これならできる」シリーズのスピーカー工作ムック本は毎年夏に新作が発売されているようですので、お子さんの居られる家庭では一工夫こらしつつ夏休みの工作などとして一緒に作られるのも良いでしょう。終始楽しみながら作る事の出来る製作過程でした。