2006年11月に販売の始まった PlayStation 3 は、まだ普及が始まって間もない Blu-rayドライブを搭載していた事で話題を集めました。しかも SACD の再生にまで対応するなど、「AVプレーヤー」としての機能もてんこ盛りでした。その後のモデルチェンジで SACD再生機能こそ省かれてしまいましたが、継続的なアップデートによって DVD のアップコンバート機能や DLNAクライアントとしての機能などが追加されたほか、様々なオーディオフォーマットと動画コーデックへの追加対応が行われるなど、ゲームのためだけのハードでは無く、正にマルチメディアセンターと呼ぶことのできる画期的な製品でした。
ところが、2014年2月に国内で発売された後継機の PlayStation 4 シリーズでは「ゲーム機」としての方向性を明確にしたようで、マルチメディア機能はかなり切り捨てられてしまいました。Ultra HD Blu-ray ドライブの採用が見送られただけでなく CD の再生も不可となってしまいます。DVD のアップコンバート機能も PS3 より貧弱になってしまったようで、このような変化を残念に思っていたのは筆者だけではないでしょう。nasne への対応や、DLNAクライアント機能こそ後に追加されましたが、対応フォーマットが限られるなどメディアプレイヤーとして決して使いやすいとは言えませんでした。
喜ばしいことに今回発売された PlayStation 5 では「メディアセンター」としての機能も再び強化していく方針になったようです。これは XNB のメニューが「Games」と「Media」に分けられている事からも明らかです。正直まだまだ荒削りな印象は拭えませんが、現時点での PlayStation 5 の AVメディアプレーヤーとしての機能と使い勝手をチェックしてみることにします。
■ PlayStation 5 の映像出力機能
PlayStation 4 でも後に発売された " Pro " からは 4K での映像出力が可能となりましたが、UHD BDドライブを搭載しているわけではありませんし、ゲームの映像も所詮 PlayStation 側でアップスケールして出力しているに過ぎませんでした。今回発売された PlayStation 5 では初めから 4K HDR での高解像度・ハイダイナミックレンジでの表示に本格的に対応しており、8K 表示まで視野に入っています。
PlayStation 5 (CFI-1000) |
PlayStation 4 Pro (CUH-7200) |
PlayStation 3 (CECH-4000) |
|
---|---|---|---|
HDMI 出力端子 | HDMI(2.1)x1 | HDMI(2.0b)x1 | HDMI(1.3a)x1 |
最大解像度 | 2160p(3,840x2,160)・120Hz | 2160p(3,840x2,160)・60Hz | 1080p(1,920x1,080)・60Hz |
HDR | HDR 10(10+ には非対応) | HDR 10 | ✕ |
Dolby Vision | ✕ | ✕ | ✕ |
PlayStation 5 の 8K 映像出力は将来のファームウェアアップデートで対応予定とのことで、現時点では 4K・120Hz までの映像出力となります。残念ながら Dolby Vision や HDR 10+ といった上位の規格には対応していませんが、将来的なファームウェアの更新で使えるようになる可能性はあるかも知れません。
PlayStation 5 に付属している HDMIケーブルは HDMI 2.1 に対応したものらしいので通常はこちらを使えば問題ないはずですが、長さが足りないなどの理由で市販の製品を使う場合は、高速伝送規格に対応したものを使わないと帯域不足で正常に表示されない可能性があるので注意して下さい。
言うまでもありませんが、4K や 8K、HDR や 120Hz のリフレッシュレートでの表示といった機能を利用するには PlayStation だけでなくテレビやディスプレイ、AVアンプなども対応している必要があります。ただ、パナソニックの HDMI 2.1 対応のチップセットを採用した製品で不具合が出ているようですし、まだ規格として成熟していないようです。対応ディスプレイやテレビの購入を新たに考えている方は少し待った方がいいかも知れません。
■ 光学ディスクドライブと Blu-ray再生機能
【通常版】の PlayStation 5 は Blu-ray(4K Ultra HD対応)と DVD の再生に対応した光学ディスクドライブを搭載しています。【デジタルエディション】にはそもそも光学ディスクドライブが搭載されていません。また、すっかり下火になってしまった感じのある「3D Blu-ray」ソフトの再生については現時点で対応していません。(将来的に再生出来るようになる可能性はありますが・・・。)
通常版の PlayStation 5 に搭載されている光学ディスクドライブは、能力としては BDXL の 3層 100GB のディスク再生にまで対応しているようですが、市販されている映像ソフトは Ultra HD Blu-ray対応のものであっても今のところ 2層ディスク止まりとなっているようです。
PlayStation 5 (CFI-1000) |
PlayStation 4 Pro (CUH-7200) |
PlayStation 3 (CECH-4000) |
|
---|---|---|---|
Ultra HD Blu-ray | 通常版のみ | ✕ | ✕ |
Blu-ray | 通常版のみ | 〇 | 〇 |
3D Blu-ray | ✕ | 〇 | 〇 |
DVD | 通常版のみ | 〇 | 〇 |
CD | ✕ | ✕ | 〇 |
音楽CD の再生機能は PlayStation 4 同様非搭載となってしまいました。CD用のピックアップレンズ自体を搭載していないようなので、今後も音楽CD の読み取りは出来るようにはならないでしょう。音楽もストリーミングサービスへと移行しつつありますし、これは時代の流れなのでしょうかね。
Blu-ray Disk 再生時には音声の出力方式を「リニアPCM」と「ビットストリーム」から選べるのですが、一体何が違うのか、どちらを選ぶのが良いのかといった事についてちょっと考えてみましょう。
■ 「リニアPCM」と「ビットストリーム」出力
PlayStation 5 は光デジタル音声出力端子を搭載していません。映像・音声ともにテレビや AVアンプとは HDMIケーブルで接続することになります。(変換アダプタを使う手もありますが。)音声の出力方法として「リニアPCM」と「ビットストリーム」の 2種類が用意されているのですが、何がどう違うのか分かりにくいですよね?ということで、両者の違いについてちょっと整理してみます。
ざっくり言ってしまうと、「リニアPCM」方式と「ビットストリーム」方式の違いは、音声データのデコード処理を PlayStation 5 で行うのか、それとも外部の AVアンプなどに任せるのかということです。
「リニアPCM」方式では「非圧縮」で音声データを記録する方式なので、元の音声データが劣化することが無く最も高音質なのですが、データ容量がどうしても大きくなってしまいます。このため、Blu-ray Disk やストリーミング配信などでは Dolby Digital や DTS などといったコーデックを使ってデータの圧縮が行われるのが一般的です。(コンサートライブなどリニアPCM で収録されているものもあります。)
PlayStation 5 標準の音声出力フォーマットは「リニアPCM出力」になるようで、ゲームの音声は最大で「7.1ch リニアPCM」として出力されます。(HDMI機器を「AVアンプ」に、チャンネル数を「7.1ch」に設定した場合。)ここを「ビットストリーム」に変更することで Dolby や DTS で音声を出力出来るようになりますが、Dolby や DTS に対応した機器に接続しないと音が出なくなってしまいます。
PlayStation 5 は「Tempest 3D オーディオエンジン」という高性能な専用DSPを搭載しており、ホームシアターシステムが無くても近いうちに 2ch のテレビスピーカーなどでバーチャルサラウンドによる立体的な音場感を楽しめるようになるとのことですし、特に個別のソフトやアプリで設定変更が必要になるような事でも無い限り基本的には「リニアPCM」を選択しておけばよいでしょう。
■ PlayStation 5 で再生可能な音声出力フォーマット
PlayStation 5 では基本的にゲームソフトは 7.1ch リニアPCM で音声が出力されますが、Blu-ray で映画や音楽ソフトを再生している場合は、再生しているアプリの中で簡単に音声フォーマットを変更することができます。DualSense を使っている場合はタッチパッド横の ボタン、純正リモコンを使っている場合は同じく のボタンを押すと設定メニューが表示されるので、以下の様に「ビットストリーム」に変更することでデコードを AVアンプに任せることが可能です。
上の写真は 7.1ch DTS-HD Master Audio に対応した映画版「レ・ミゼラブル」を再生した時のものですが、リニアPCM が指定されていれば「Multi In 7.1ch」(7.1ch PCM で音声データが入力されていることを意味しています)で、ビットストリームが選択されていれば「DTS-HD Master Audio」と AVアンプ側で認識されているのが分かるかと思います。
PlayStation 5 が対応しているオーディオフォーマットは以下のとおり。(量子化ビット数、ビットレート、サンプリング周波数は Blu-ray Disk の規格から拾い上げています。)
圧縮方式 | 最大ch数 | 量子化ビット数 | ビットレート | サンプリング周波数 | |
---|---|---|---|---|---|
Linear PCM | ロスレス | 最大 7.1ch | 24bit | 最大 27.4Mbps | 48~192kHz |
Dolby Digital | 非可逆圧縮 | 最大 5.1ch | 16bit | 最大640kbps | 48kHz |
Dolby Digital Plus | 非可逆圧縮 | 最大 7.1ch | 20bit | 最大 6Mbps | 48kHz |
Dolby TrueHD | ロスレス | 最大 7.1ch | 24bit | 最大 18Mbps | 96kHz(7.1ch) 192kHz(5.1ch) |
DTS | 非可逆圧縮 | 最大 6.1ch (DTS-ES) |
24bit | 最大 1.5Mbps | 48kHz |
DTS-HD High Resolution Audio |
非可逆圧縮 | 最大 7.1ch | 24bit | 最大 5.7Mbps | 96kHz |
DTS-HD Master Audio | ロスレス | 最大 7.1ch | 24bit | 最大 24.5Mbps | 96kHz(7.1ch) 192kHz(5.1ch) |
上記の表以外に YouTube や BS放送などで使われている AAC(最大 5.1ch)にも対応しています。
「Dolby Atmos」と「DTS:X」については、PlayStation 5 標準の Blu-ray Disk プレーヤーで対応ソフトを再生し、再生時にビットストリーム出力を選択した場合のみ出力が可能なようです。(こちらについては残念ながら Dolby Atmos や DTS:X で音声が収録された DISK を持っていないので未確認です。)
■ メディアプレーヤー機能
PlayStation 5 には純正のメディアプレイヤー機能が用意されていますが、いまのところかなり限定された機能しか持っていないようです。PlayStation 4 のメディアプレイヤーで徐々に機能追加がされたように、こちらについては徐々に良くなっていくだろうと期待したいと思います。
USBメモリを PlayStation 5 に差した場合、2020年12月現在、次のことが行えます。
動画ファイル再生
USBメモリの第1階層に適当な名前でフォルダを作り、そこに保存した動画ファイルの再生が可能です。但し、再生出来る動画フォーマットは mp4 のみのようです。dミュージックで購入したビデオクリップ(mp4フォーマット)を USBメモリに保存して再生を行うことができましたが、少なくとも mpg、mpeg、avi、wmv 形式のファイルについては再生出来ませんでした。音楽ファイル再生
音楽ファイルは USBメモリの第1階層に「Music」というフォルダを作り、そこに保存しなくてはならないようです。flac、mp3、m4a(AAC)、mqa(flac)については再生可能であることを確認しました(mqa は flac として再生出来ているに過ぎないでしょうが)。但し、同じ m4a というファイル拡張子であっても ALAC(Apple Lossless)形式のものは認識はされますが再生不可でした。DSD と ogg 形式のファイルは残念ながら認識すらされません。
ちなみに音楽再生は、PSボタン押して画面下部に表示されるメニューバーの ♫ アイコンから USBメモリを選べば再生することが出来ます。画像ファイル再生
jpg、jpeg、png形式の画像ファイルは表示することが出来ました。raw画像でなければデジカメで撮影したファイルを見ることは出来ると思います。こちらも同じく USBメモリの第1階層に作成したフォルダに入れておく必要があります。gif形式のファイルは認識もされませんでした。
また、 現時点では PlayStation 5 に DLNA クライアントとしての機能は実装されていません。DTCP-IP にも対応していないようです。このため残念ながら NAS などに保存している動画や音楽をネットワーク経由で PlayStation 5 から再生する事は出来ません。こちらについては PlayStation 4 でも後から機能が追加されましたし、今後のアップデートに期待したいと思います。
■ nasne との連携
2020年12月の時点で PlayStation 5 には torne アプリが用意されていないため、nasne を連携させてテレビを見たり録画した番組を再生したりすることは出来ません。nasne は既にソニーでは生産終了となってしまいましたが、バッファローが継承し、2021年の春に改めて発売されることが決定しています。
⇒ BUFFALO版「nasne」が発売され、PlayStation 5 版の「torne」も使用できるようになったので
試してみました。以下の記事でレビューしていますので併せてご覧下さい。
■ ストリーミングサービス
映画やドラマなどの映像配信サービスはすっかりメジャーな存在になりました。PlayStation 5 も発売日段階で数多くのサブスクリプション制ストリーミングサービスに対応しています。
PlayStation 5 で利用可能なストリーミングサービスは以下の通り。ファミリープラン、学生プランなど割引が用意されているサービスもあります。また、以下に記載している料金プランは 2021年4月1日時点の税込価格です。各料金プランの詳細は最新の情報をそれぞれのサービスで必ずご確認下さい。
サービス名 | 料金 | 特徴 |
---|---|---|
Apple TV+ | 600円 / 月 6,000円 / 年 |
・Apple TV+ の対象は Apple オリジナル作品と一部の映画など ・iTunes Store で購入・レンタルした作品の視聴も可能 ・Apple Music などとセットになった「Apple One」もあり |
Amazon Prime Video | 500円 / 月 4,900円 / 年 |
・オリジナル作品あり ・ストアで購入・レンタルした作品の視聴も可能 ・特典多数(送料無料、Prime Music、Prime Reading など) |
Netflix | 990円 / 月~ 1,980円 / 月 |
・画質と同時視聴可能な端末数による料金体系 (HD画質は 1,490円 / 月、4K画質 は 1,980円 / 月) ・オリジナル作品あり |
Hulu | 1,026円 / 月 | ・オリジナル作品あり ・ストアで購入・レンタルした作品の視聴も可能 |
U-NEXT | 1,639円 / 月~ | ・月額 1,639円のプランは「1年縛り」(解約違約金あり) ・月額 2,189円のプランには 1,200円分のポイント付与 ・別料金の作品あり(ポイントで購入・レンタル可能) |
DAZN | 1,925円 / 月 19,250円/年 |
・モータースポーツ・サッカー・格闘技などスポーツに特化した ストリーミングサービス |
DMM.com | 作品毎 | ・購入又はレンタルした作品を視聴可能 |
Twitch | 無料で視聴可 | ・Amazon 傘下の動画配信プラットフォーム ・Amazon Prime 加入者は「Prime Gaming」として特典あり ・ゲーム実況配信が多い、投げ銭システム有り |
YouTube | 無料で視聴可 | ・月額 1,180円で広告が表示されず YouTube Music とセットに なった「YouTube Premium」も有り |
サービス名 | 料金 | 特徴 |
---|---|---|
Spotify | 980円 / 月~ |
・5,000万曲以上が聴き放題 ・フリープランあり(オフライン再生不可など一部制限と広告が入ります) |
音楽配信サービスは Spotify のみに対応しています。残念ながら Amazon Music や Apple Music に加入していても聴くことが出来ません。Sony は自社で「mora qualitas」という月額 2,178円のハイレゾ音楽配信サービスを行っているのですが、そちらにすら対応していません。
映像ストリーミングサービスの利用時に HDR や 4K といった高画質での視聴が出来るかどうかは各サービスとアプリに拠るようです。これは音声フォーマットについても同じです。Apple TV+ などで実際は Dolby Atmos の音声フォーマットで配信されている作品であっても少なくとも今のところ Dolby Atmos での視聴はできず、5.1ch 止まりになるようでした。ただこの辺りは今後アップデートなどによって対応する可能性はあるかも知れません
■ リモコン
PlayStation 5 では PlayStation 3 以来となる純正リモコン(CFI-ZMR1J)が用意されています。
[rakuten:jism:13111616:detail]
PlayStation 5 をメディアプレーヤーとしても使うのであればあった方が便利なのは確かだと思います。ただこのリモコン、デザインはそれなりにシンプルで良いのですが、どちらかというとデジタルエディション向けの作りですね。Blu-ray ディスクの再生にも勿論使えはするのですが、ディスクの取り出しボタンが無かったり、Blu-ray のチャプター表示などの操作メニューを出すのに何回かボタンを押して階層を追わなければならなかったりとBlu-rayドライブを搭載した「通常版」向けの作りにはなっていない印象を受けました。
個人的にはリモコン下部にある Disney+、Netflix、Spotify、YouTube のボタンは要らないのでディスクメデイア操作用のボタンを付けておいて欲しかったです。というか Disney+ に至っては 2021年4月現在日本では PlayStation 5 から使えないという・・・(苦笑)。この部分はデザイン的にもうるさいです。
⇒ Disney+ については 2021年10月末より PlayStation 5 で視聴出来るようになりました。
■ マルチメディアプレーヤーとしては発展途上だが今後に期待
これらの他、過去に PlayStation Store で購入済みの映画についても PlayStation 5 で視聴することができます。ただ、PlayStation 5 の Store からは新たに映像作品の購入をすることが出来ないのですよね。単に実装が遅れているだけなら良いのですが、今後の展開がちょっと読めない部分ではあります。個人的には一刻も早く nasne と DLNA には対応して欲しいところです。
まだ動画配信サービスに加入していないのであれば、最初の一つとして Amazon Prime への加入を強くお勧めします。Prime Video で洋画・邦画・アニメ・オリジナル連続ドラマなど数多くの作品が見放題になるだけで無く、年額僅か 4,900円で Amazon での買い物の送料が無料になったり Prime Music、Prime Reading を利用出来たりと特典が盛りだくさんです。初めて Amazon Prime に加入する場合は 30日間の無料体験も可能なので是非一度試して見て下さい。
Blu-ray や DVD の再生について気がついた点が 1点。どうもディスクを入れ替えて音声フォーマットの異なる別の作品を再生したりすると音声デコードがバグることがあるようです。再生を始めるといきなりノイズが流れてびっくりすることがあるかも知れません。このようになった場合は一旦 のボタンを押して設定メニューを出し、音声フォーマットをリニアPCMに切り替えてから再度ビットストリームに設定し直してみて下さい。
Blu-ray や DVD の画質はかなりいいのでは無いかと思います。特に DVD のアップコンバート能力はかなり高いようで、古い DVD ソフトでもかなり綺麗に映って驚きました。上記の様なバグのようなものがあったり DLNA に対応していなかったりと、正直マルチメディアプレーヤーとしての完成度はまだまだだと思いますが、今後の機能追加と改良には大いに期待したいと思います。