PC の自作をするにあたってまず決めなければならないのが Intel か AMD か、どちらの CPU を使うかでしょう。ところがここ最近の Intel は旗色が悪いことこの上なし。微細化レースで後れを取り AIブームにも乗り遅れたことから業績は急激に悪化しており、Qualcomm のほか Apple や Samsung などからの買収話まで取り沙汰されるようになっています。
CPU としての性能面では依然 AMD より Intel の方が優れたスコアを出してはいるようですが、微細化の遅れなどもあって発熱量が多く、電力消費も高いと聞きます。加えて第 13世代、第 14世代の ” Core ” シリーズでは設計に起因するクラッシュにより最悪 CPU に深刻な劣化が発生するという問題も発覚しました(現在はマイクロコードのパッチにより解消したとされているようですが)。
先日新たに発売された「Core Ultra」シリーズでは今のところそのような問題は発生していないようですが、CPU ソケットが「LGA1851」に変更されたことからこれまでの CPU とは互換性が無く、1世代限りで別のソケットに変更されてしまうといった噂も聞かれて手を出しにくい・・・。
ということで、今回は AMD の Ryzen を使う事にしました。AMD の方でも ” Zen 5 ” アーキテクチャの 9000 シリーズがこの夏に発売されたばかり。「X670」「B650」というチップセットを採用したマザーボードでも UEFI/BIOS を更新すれば ” Zen 5 ” 世代の CPU を使う事も出来ますが、PCI Express 5.0 のレーン数が少なかったりするのでここでは除外。「X670E」と ” Zen 5 ” 世代の CPU と合わせて発売された「X870E」「X870」チップセットについて少し見比べてみることにします。
チップセット | X870E | X870 | X670E |
---|---|---|---|
対応CPU | AMD Ryzen 9000 / 8000 / 7000(Zen 5 / 4) | ||
PCI Express 5.0 | 最大 24本 | 最大 24本 | 最大 24本 |
PCI Express 4.0 | 最大 12本 | 最大 8本 | 最大 12本 |
PCI Express 3.0 | 最大 8本 | 最大 4本 | 最大 8本 |
USB バージョン | USB4 | USB4 | USB3.2 Gen2x2 |
SATA | 8本 | 4本 | 8本 |
最新チップセットの「X870E」「X870」は USB4(最大転送速度 40Gbps) に標準対応していることが特徴の 1つです。「X670E」以前のチップセットでも USB4 に対応させることは可能でしたが、追加のチップを搭載する必要がありました。転送速度の理論値は 5,000MB/s にも達するとのことなので、高速な外付け SSD を使用可能です。大量の動画や写真の撮影をする方などには魅力的な規格でしょう。
Wi-Fi はチップセットの機能ではありませんが、発売時期的に「X870」世代のマザーボードでは最新の「Wi-Fi 7」に対応した製品が多い事も特徴です。但し、こちらはルーター側の対応も必要で、Wi-Fi の通信速度だけ速くなっても元のインターネット回線も速くないとあまり意味があるとは言えません(家庭内 LAN の速度は上がりますが)。内ではまだ 1Gbps のネット回線環境なので、こちらに関しては気にしないことにしました。「X670E」を搭載したマザーボードでも Wi-Fi 機能を持っているものは「Wi-Fi 6E」にまでは対応しているものが多いですしね。
いずれにせよ、少なくとも AMD の Socket AM5 は 2027年まで継続される明言されているのは心強いばかりです。つまりはマザーボードを交換しなくても CPU をアップグレードすることの出来る可能性が残されるということですからね。
■ ASRock の「X670E Steel Legend」に決定!
とにかくハイエンドな構成の PC にしたい!最新のゲームをバリバリ遊びたい!というのでも無ければ価格が下がってコストパーフォーマンスの高くなった「X670E」チップセットを搭載したマザーボードを選ぶメリットは大きいんじゃないかと思います。ということで、ASRock の「X670E Steel Legend」というマザーボードを購入してみることにしました。
別に ” Steel Legend ” に拘っている訳ではありませんが、同じ ASRock からは X870 チップセットを搭載した「X870 Steel Legend WiFi」というマザーボードも発売されていますので、予算に余裕のある方、ハイエンド構成にしたい方は勿論こちらを選ぶのも良いでしょう。
「X670E Steel Legend」と似たような価格と構成の MSI 製マザーボード「MAG X670E TOMAHAWK WIFI 」とは最後まで悩んだのですが、LANポートが 2つあるという点が決め手になりました。うちの LAN 環境は 1GbE なので、2.5GbE の LANポートがあっても 1つでは宝の持ち腐れになってしまうのですよね。SMB マルチチャンネルの余地を残しておきたかったのです。
パッケージを開けると更にしっかりした箱の中にマザーボードが収められていました。代理店は「アスク」さん。2年間の製品保証が付いています。
付属品一式です。ハイエンドマザーボードではないので付属品の内容としては簡素な方でしょう。マニュアル一式の他には SATAケーブルが 2本、Wi-Fi 用のアンテナ、M.2 ソケット用のネジx4、M.2 ソケット用のスタンドオフが 1ヶとグラフィックカードホルダーにノベルティのキーキャップが 1個と結束バンドが 2本でした。ドライバ類は全てダウンロード式です。
付属のマニュアルは英語表記のみです。まあ組み立てに困ることはありませんが、Web の方に日本語マニュアルも用意されているのでダウンロードしておくとよいでしょう。というか iPad などで見れるようにしておくと拡大縮小も自在なので紙よりもこっちの方が便利。
ノベルティのキーキャップは地味に嬉しいのですが、所謂 ” Cherry 軸 ” のキーキャップ(裏面が ✚ になっているタイプ)のものなので うちで使っている東プレのキーボード には使えないんですよね・・・。
「X670E Steel Legend」は黒と白のモノトーンデザイン。なかなか格好いいんじゃないでしょうか。サーバーグレードの低損失 8層基盤に Dr.MOS 設計かつフェーズ数 16 + 2 + 1 という強力な電源回路を備えています。PCIe スロットは PCIe 5.0x16 が 1本、PCIe 3.0x16 が 1本、PCIe 3.0x1 が 1本の 3スロット構成。最近は拡張カードを増設する必要性も少なくなっているので、まあこれで充分でしょう。
裏面には補強プレートがあるくらいで、目立った部品は配置されていません。
バックパネルはカバーと一体になったタイプ。ケースにマザーボードを組み込んでからバックパネルカバーの付け忘れに気付く(意外とあったりするのです💦)という心配はありません。
映像出力端子は DisplayPort 1.4 と HDMI 2.1 の 2つ(共に HDCP 2.3 対応)が用意されています。有線LAN も 2.5GbE と 1GbE の 2つ。最近は 2個搭載しているマザーボードは少なくなってきました。
「BIOS Flashback」ボタンが付いているので、未対応 CPU を組み込みたいという場合でも UEFI/BIOS を更新して対応させることが可能です。最近では極一般的な機能となりましたが、CPU 無しでも UEFI/BIOS の更新が出来るとは随分便利になったものです。以前は未対応マザーボードを購入してしまった場合は何らかの手段で一時的にせよ対応済みの CPU を用意しないといけませんでしたからね・・・。
Socket AM5 では Socket AM4 までと違い、ピンが CPU側ではなくソケット側に付くようになりました。このため ” スッポン ” という悲劇(?)は起こらなくなりましたが、これはこれで CPU を取り付ける際に落としたりしてピンを曲げてしまわないよう注意が必要です。CPUクーラーについては基本的に Socket AM4 で使用していたものがそのまま使えるとのこと。Noctua の「NH-D15」については Socket AM4 用のマウンティングキット を使えば問題無さそうです。
ATX12V のコネクタは 2つ用意されていますが、ハイエンド CPU を使わないのなら片方だけしか接続しなくても動作はするようです(マニュアル上でも ATX12V2 は ” オプション ” とされています)。ATX電源コネクタの側には PC 内部配線用の USB ポート。⬇ のような製品を組み込めばケースのフロントパネルなどに USBコネクタを設けることが出来るようになります。 ただ、最近の PCケースはフロントベイが無いものも多いのでご注意を。
DDR5 メモリスロットは 4本ありますが、2本だけ挿す場合は「A2」と「B2」のスロットに挿す必要があるそうです。DDR5 メモリは 4本とも挿すと動作速度が落ちたり不安定になることもあるようなので、こちらもご注意を。大容量のメモリはだいぶ手を出しやすい価格帯に降りてきていますので、なるべく 1組の組合せにしておく方が良さそうです。
「X670E Steel Legend」では M.2 SSD を最大 4本取り付ける事が出来るようになっていますが、このうち CPU に一番近い「Blazing M.2 Sockets」と名付けられた M2_1 スロットのみ PCIe Gen5x4 の SSD に対応しています(他の 3スロットは PCIe Gen4x4 までの対応)。「X670E」チップセットでは潤沢な PCIeレーン数が確保されていることもあり、スロット間の排他使用の組合せに悩まされる事は無さそうです。
オーディオチップは Reaktek の「ALC1220」をオンボード搭載。リアパネルのオーディオ入出力コネクタが少ない(SPDIF と 2ch Line Out、マイク入力しかない)ですが、HDMI から音声を出力させれば 7.1ch オーディオも使えるようです。” Nahimic オーディオ ” にも対応しているらしい。
UEFI/BIOS 設定画面へは、PC の電源を入れた直後に「F2」または「Del」キーを押しっぱなしにしておくことで入ることが出来ます。一応日本語モードも用意されているので、必要な場合は変更しておくと良いでしょう(「Easy Mode」なら画面上部、「Advanced Mode」なら画面下部のタブから変更可)。
「X670E Steel Legend」の UEFI/BIOS 画面は非常に質素な感じです。恐らく ASRock の「Steel Legend」シリーズはだいたいこのような感じなのでしょう。質実剛健!といったところでしょうか。
「Easy Mode」ではメモリの動作方式を変えることくらいしか出来ませんので、設定変更は「Advanced Mode」から行うことになります。購入時点の BIOSバージョンは「3.01」でした。
マイクロコードは「AGESA 1.1.7.0」となっていて、UEFI/BIOS をアップデートしなくても Ryzen 7 9700X は無事認識されました。とは言え、現時点で最新版となる「3.15」に至るまでに CPU パフォーマンスやメモリレイテンシの改善などが施されているそうなので、後日アップデートしておくことにします。
それにしても PC用のマザーボードの価格は高くなりましたね・・・。ちょっと前までは 3万円も出せばハイエンドクラスのマザーボードが購入出来たのに、型落ちの中堅クラスが買えるかどうかになってしまいました。今じゃ 20万円に迫る製品まで発売されています。
確かに最新のチップセットを搭載したマザーボードに興味はありますが、「X870E」と「X670E」のように機能差が僅かで妥協出来るレベルであるのなら ” 型落ち ” となってコストパフォーマンスが跳ね上がった旧製品を買うメリットは大きいんじゃないでしょうか。代替わりとなって順次生産終了となる可能性もありますので、購入をお考えの方はお早めにどうぞ!
そうそう、このマザーボードに関して 1点だけ注意点!バックパネルのコネクタに取り付ける Wi-Fiアンテナが同梱されているのですが、このマザーボードで Wi-Fi を使う予定が無いという方も必ず接続して下さい。私、Bluetooth しか使わないつもりでこのアンテナを取り付けないでセットアップしたのですが、いざスマートスピーカー(Amazon Echo Studio )と Bluetooth でペアリングさせようとした際に上手く接続出来ず悩む羽目に陥りました。どうやらこの Wi-Fiアンテナ、Bluetooth のアンテナも兼ねているようなので、忘れず接続してくださいね!
「X670E Steel Legend」には「Dragon 2.5G LAN Utility(6.10.3301.2)」というアプリケーションが用意されているのですが、どうもこちらはインストールしない方が良さそうです。
「Dragon 2.5G LAN Utility」はネットワークを監視し、QoS(Quality of Service)を行ってゲームなど応答性の求められるアプリケーションの帯域を確保させるためのソフトウェアのようなのですが、こちらをインストールするとネットサーフィンの快適性が大きく損なわれ、閲覧できなくなってしまう Webページが多数発生しました。Google Analitics なんかも見れなくなってしまうのですよね・・・。というわけでこちらはアンインストール。ご注意下さい。
(2024.12.31)