既にニュースなどでご存知の方も多いでしょう。「オンキヨー」のブランド名でスピーカーやアンプ、ヘッドホンなどのオーディオ機器を製造・販売していた「オンキヨーホームエンターテイメント」が 5月13日に大阪地裁に自己破産の申請を行い、同日付で破産手続き開始決定を受けたそうです。
負債総額 31億円と、企業の倒産としてはそれ程たいした負債規模ではないので、どこかが助けられたんじゃないかと思う方もいるかも知れませんが、ここに至るまでの経緯がいろいろと酷すぎたため、最終的に手を差しのべるところはありませんでした。
「驚きのニュース」などと書いているメディアもありましたが、一ファンとしてオンキヨーが凋落している様子を眺めていた身としては正直よくここまで粘ったな(粘れたな)というのが正直な感想です。
とは言え、筆者も複数のオンキヨー製品を使ってきた身。少なからぬ思い入れもあるメーカーです。そこでオンキヨーを偲びつつ、どのような経緯を辿ったのかちょっと整理しておくことにしましょう。
■ ONKYO が破綻に至るまでの経緯
オンキヨーは 1946年に松下電器産業から独立する形でスピーカーの製造などを行う「大阪電気音響社」として創業されました。東芝の傘下に入った時期もありましたが、1960年代から 1980年代にかけてのオーディブームの中で黄金期を迎えていたようです。ブランドが「オンキヨー(ONKYO)」に統一されたのも 1971年のことでした。
1990年代に入ってオーディオ機器はデジタル化・小型化が進みましたが、ミニコンポブームの中でもオンキヨーなどは「ハイコンポ」「プラミアムミニコンポ」といった小型サイズの高級オーディオメーカーとしての存在感を示し、「INTECシリーズ」は大ヒット商品となったそうです。
2000年代に入って「iPod」を初めとするデジタルオーディオプレーヤーが普及し始めると、場所を取るオーディオ機器市場は縮小傾向を加速していきますが、iPod との連携を図ったり新たに広まり始めた「ホームシアター」市場を育てるなど、それなりに上手くやっていた時期でした。
ところが、韓国の PC メーカーだった「SOTEC」を吸収合併した頃から 2008年の「リーマンショック」、2011年の東日本大震災とそれを契機にした急激な円高の進行(10月末には 1ドル=75円32銭 という史上最高値を記録)など不運も重なったこともあってか経営が急速に迷走し始めます。
その後パイオニアの AV事業を統合するなどしますが、手に入れたパソコン事業は韓国Moneual に移管するも 2014年末に移管先が破産、米国 Gibson の出資を受けて傘下となるも今度はその Gibson 自身が 2018年に連邦倒産法 11章(Chaper 11)を申請して倒産するなど時間と共に追い込まれていき、信用不安から銀行からの借り入れや公募増資、社債発行など通常の手段による新たな資金調達が困難になっていました。この頃から「EVO FUND」という投資ファンドの名前を目にするようになります。
「EVO FUND」は、米国ロサンゼルスを中心に東京など世界 7カ国 11拠点を構えている「EVOLUTION FINANCIAL GROUP」が運用する投資ファンドです。このファンド、言い方は非常に悪いですが「○ゲタカファンド」と揶揄されるファンドの 1つです。ベンチャーキャピタル事業などもやっているようですが、他に資金調達の手段が無くなった企業が最後に頼る駆け込み寺的な資金調達先という側面が強いファンドと言い切ってしまってよいでしょう。
オンキヨーの場合は、MSSO(行使価額修正条項付新株予約権(Moving Strike Sotck Option)、MSワラントとも呼ばれる)を大量に引き受けました。MSSO は、株価の変動に応じて新株予約権の行使価格も修正されるという特徴を持っています。一般的にはファンドは投資資金を返済してもらう代わりに新たに株を発行してもらい、それを市場で売却して投資資金を回収するという建前になっています。権利を行使した価格より株価が上がると差額がボーナス利益となるわけですね。
ですが、事はそう単純な話では無く、実際は新株を発行してもらう前に借りてきた株の空売りを入れているケースが多いようです。つまり、権利を行使して発行された株を使って空売りしていた株を現渡し決済すればファンドとしては損しないように出来ているどころか、空売りした価格よりも新株の引受価格が大きく下がっていれば利益が大きくなる可能性すらあるということになります。
一方、MSSO を発行した企業では株式発行数が大きく増加するため著しい価値の希薄化が発生し、その後の株価の戻りも悪くなることがほとんどです。実際オンキヨーの長期株価チャートを見てみると、2018年辺りからはほぼ右肩下がりに株価が下落しているのが分かるかと思います。MSSO は行使期間に定めがあるとは言え、期限前に償却して新たな条件で再度発行されることも多く、いつどのタイミングで権利を行使するかは引受企業に決定権があるため、発行企業にとっても株価が下がると資金調達額が減ってしまうリスクがあります。投資している企業にこのファンドの名前を見たら注意した方がよいでしょう。
2019年にはホームAV事業については DENON や Marantz などを傘下に持つ米 Sound United に譲渡する事となっていましたが土壇場になって破談してしまいました。憶測ですが、オンキヨー側の利害関係者がかなり無理な要求を通そうとしたのでしょう。この件が致命的となり、債務の支払い遅延が常態化して取引先の信用を失った結果、製品生産に必要な部品の調達すら困難な状態に陥り、生産規模の縮小・停止を余儀なくされました。
その後も EVO FUND への新たな MSSO の割り当て、債権者へデット・エクィティ・スワップ(債務の株式化)を行うなどしますが、最終的には株価の低迷でこれ以上の MSSO の行使に旨み無しと判断されたようで EVO FUND に見捨てられた格好となり、2021年8月1日を以て JASDAQ を上場廃止となりました。
株式発行による資金調達が行えなくなったオンキヨーは、クラウドファンディングを活用して生産を行う道を採ることにしたようですが、これが結果的に被害者を増やす格好になりました。日経の記事 に拠ると、今回の「オンキヨーホームエンターテイメント」破産に伴う債権者 500人のうち 250人がクラウドファンディングの出資者で、どうやらまだ下記 2件のリターン品の受取が出来ていないそうです。 「活動報告」には 5月16日時点で「お詫びと状況報告」が掲載され、
OHEは破産となりますが、マレーシア工場は存続しており他社様の下請け含め事業は継続しております。本日がマレーシアの祭日となっているため明日以降、工場に詳細を確認し改め報告させて頂きます。
とありますが、破産管財人の方ではオンキヨーホームエンターテイメントから製造委託先に代金も支払われていないということのようなので、ほぼ絶望的な状況だと思われます。債権者としての順位も高くはならないでしょう。「SC-LX904」の方は 30万オーバーですか・・・。
ONKYO がクラウドファンディング案件を連発しているのは知っていましたが、ずっと危なっかしいなとは思っていたのですよね。何度か実績を作って安心させておいたところで破産とは悪質ですね・・・。
ちなみに事業の切り売りでややこしいことになっていますが、以下の会社は存続します。ブランドとしての「オンキヨー」も当面は残るでしょう。
「オンキョーテクノロジー株式会社」
VOXX International Corporation とシャープの合弁会社。ホームオーディオ&ビジュアル製品部
門が移管されて誕生。今後新たな「ONKYO」ブランドの製品がここから出てくるかは不明。「オトモア株式会社」
オンキヨーのイヤホン・ヘッドホン事業が譲渡された会社。オンキヨー(パイオニア)元社員も
在籍している模様。パイオニアの製品であった「femimi(フェミミ)」「快テレ君」の商標権を
取得して販売中。但し、オンキヨーホームエンターテイメントが販売した製品のサポートは出来
ないとのこと。「e-onkyo music」
ハイレゾ音源配信サイト。仏最大手の音楽配信サービスで知られる Xandrie SA 傘下の Xandrie
Japan株式会社に譲渡済み。オンキヨーホームエンターテイメントとの資本関係は無いので今後
も存続とのこと。「ONKYO DIRECT」
アニメコラボ商品のイヤホンなどを多数販売しているオンキヨーの公式ショップだが、2020年
10月に分社化して設立された「オンキヨー株式会社」が運営している(ややこしい!)ため今
のところ経営に影響は無い模様。但し経営者は今回破産した「オンキヨーホームエンターテイ
メント」と同じ大朏宗徳氏なので気には留めておいた方がよいでしょう。
残念ですが、オンキヨー製品の修理に関しては絶望的な状況でしょうね。今後元社員の方などが修理サービスを行う会社などを立ち上げてくれればいいですけどね・・・。
■ 私が使ってきた ONKYO 製品たち
このブログでは過去に以下の ONKYO製品を取り上げてきました。
スピーカーの「D309M」はサラウンドスピーカーとして今も 4台が稼働中、ポタアンの「DAC-HA200」もまだ現役で iPad Pro と組み合わせて使っています。「E700M」は最近使っていませんが壊れたわけではありません。他には Intec 275 シリーズの「C-733」という CDプレーヤーも健在です。
既に手元に無いものでは、AVアンプの「NR-365」「SA-205HD」、PC用スピーカーの「GX-70A」、PC用サウンドカードの「SE-150 PCI」「SE-120 PCI」など、結構色々使っていたなと思い出してしんみり。
今後の修理対応は全く期待出来ない状況ですが、そもそもスピーカーは早々壊れるような物ではありませんし、ポタアンもバッテリーさえ調達出来ればなんとか延命出来そうです。aliexpress なら手に入れられそうな気もしなくはありません(中華バッテリーは怖さもありますが)。今も使っているものについては出来る範囲でメンテナンスしつつ、少しでも長く使っていこうと思います。
記事中であげた AVアンプのクラウドファンディングの件ですが、ホームAV事業を譲渡された VOXXグループ傘下の Premium Audio Conpany,LLC(以下 PAC)社とシャープが合弁で設立した「オンキヨーテクノロジー」が PAC の支援を受けてなんとか無事に支援者の元に届けられたようです。新しく設立された会社には道義的責任はともかくとして法的な義務はなかったでしょうからかなり異例の神対応と言えるでしょうね。今後のブランドとしての信用を考えてのことということでしょうか。
ホームAV事業の方は新製品もなんとか出てきそうですね。ブランドと製品開発に関わる従業員の多くは新会社の「オンキヨーテクノロジー」に引き継がれたようで、ほんとに名前しか残らなかった山水電気のようになってしまわず良かったですね・・・。 (2022.11.19)