(新)タイトルいつ決めるのさ

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フラッシュ・ボーイズ(マイケル・ルイス著)

先日、日本経済新聞にこのような記事が掲載されてちょっとした騒ぎになりました。

かいつまんで言うと、SBI証券では「SOR(Smart Order Routing)」という複数の取引市場の中で自動的に最良の気配値を選択して発注するシステムを初期設定(自動選択)としていました(しかも東証を指定するには注文の都度指定し直す必要があったそうです)。

一見投資家にとって最良気配値で売買できるので理想的な環境のように思えるのですが、実は SBI証券は傘下に「ジャパンネクストPTS」という PTS(私設取引システム)を持っていて、個人投資家の出した注文情報を全てそちらの方に優先的に繋ぎ、ごく僅かな時間東証のシステムの気配値表示との時差が生じるようにしておいて HFT(High-Frequency Trading:高頻度取引)というミリ秒単位の時間で高速かつ高頻度に取引を行う業者に付けいる隙を意図的に与えていたということのようです。

この結果、一般の個人投資家からは突然板が蒸発したように見え、本来取得できたはずの価格より平均約定価格が上がったり下がったりする、所謂「板が滑る」という現象が起こったように見えます。確実に防ごうと思ったら東証を明確に指定して「指値」で発注するしかありませんが、板の薄い銘柄などでは希望する量の取引が出来ないかも知れません。

この記事を受けて槍玉に挙げられた SBI は即座に反応、以下のようなリリースを出しました。

暴露された当日のうちに個人投資家の不利にならないように設定を変えたと言っているわけですが、この反応の早さからみても分かってやっていたという事が覗えるのではないでしょうか。日経の記事の方にも「関連情報」としてこの修正がされたとの記事へのリンクが張られていますが、これは SBI が直したんだから記事を訂正しろという抗議でもあったんでしょうね。今読み返すと一部記事本文の修正も入っています。まだ北尾社長の怒りは収まらないらしく「このような記事」もブログで書いてらっしゃいます。

この問題については樂天証券は自社の取引ツール内で、マネックス証券は「当社のSORについて」というリリースを出すなど他のネット証券も日経で取り上げられたような問題になる操作は行っていないとその日のうちに身の潔白を訴えるなど影響はかなり広がっています。


PTS というものは果たしてきちんと透明性が確保された市場なのか、HFT が使う「アルゴリズム取引」と呼ばれるコンピュータによる自動売買こそが、近年目に付くようになって来た相場の「フラッシュクラッシュ」の犯人になっているのではないか、といった事については以前から色々と噂されてきました。日経の記事でも触れられていたマイケル・ルイス著の「フラッシュ・ボーイズ」は、そうした私設取引システムに潜む問題点や HFT 業者はどのようにして利益を得ているのか、現在の市場環境は一体どうなっているのかといった事を暴露した話題作です。


初版は 2014年ですが、出版された当時も様々なメディアで採り上げられて話題になっていた事を記憶しています。マイケル ルイスは米国のノンフィクション作家で、金融ジャーナリストとしても活躍されています。著書には他に「ライアーズ・ポーカー」「マネーボール」「世紀の空売り」などがあり、「マネーボール」についてはブラッド・ピット主演で映画化されているのでご覧になった方もおられるのではないかと思います。

米国では PTS 市場が複数運営されているそうで、それぞれが「私設」の取引所を繋いでいるためにマーケットメーカーの提示する価格に僅かな差が生じることがあります。また、PTS の中には「ダークプール」として所謂ノミ行為のようなもの(この場合違法な物ではありませんが)を併用している所もあり、取引所自体が投資家から利益を掠め取っていたり特定の顧客に有利になるように情報を提供していたりといったこともあるそうです。HFT 業者はそうした情報を駆使して市場の「ずれ」を検知し、他の参加者よりも高速な回線を使って個々は小さな儲けだとしてもとんでもない数の回数の取引を繰り返す事でリスクを取ることなく利益を積み上げる自動売買システムを構築しています。

日本も既に人ごとでは無く、東証では「コロケーションサービス」として有償で超高速サーバーを JPX の施設内に設置するサービスを始めており、HFT 業者は取引所のシステムにダイレクトに接続して注文の処理にかかる時間を短縮し、日々アルゴリズムを使った自動売買システムを構築して超高速・高頻度取引を行っています。今回の SBI の件もコローケションサービス、PTS、HFT の存在が揃っているからこそ起こった話でもあります。やってる本人達は「流動性を提供している」なんて事を言うのですけどね。

今回話題になった「フロント・ランニング」に纏わる話や、ヘッジファンドが取引の確定に要する時間を極限まで短くしたいという要望から光ファイバーの物理的な距離を短くして従来複数の経路を経由することで生じていた遅延をミリ秒・マイクロ秒単位で縮めるために「コロケーション」というアイデアが生まれ、超高速トレーダーの隆盛に繋がっていることなど興味深い話も多数書かれていた本でした。

この本を読んだからトレードに勝てるようになる!なんて事は無いわけですが、一体今の相場で何が起きているのかを知りたい方は是非一度読んでみるべき本だと思います。腹立たしさと諦めのような感情を得ることになるかも知れませんが、読み物としてもとても良く出来ていますよ。

※ 追記 ※


「フラッシュ・ボーイズ」も『THE HUMMINGBIRD PROJECT』(邦題:ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち)として映画化され、日本では 9月末から劇場公開されていたのですね。超高速・高頻度取引のために限りなく直線で光ファイバーを敷設してレイテンシーを極限まで下げようと土地の買収は苦情への対処に追われるという映画になっているようです。

(2019.11.24)