毎年 11月18日は「土木の日」なのだそうです。「土木」の字を分解すると、「十一」と「十八」になることと、土木学会の前身である「工学会」が創立された日を記念して、11月18日を「土木の日」と定めたのだとか。「十一」の方はともかく、「十八」の解釈はちょっと無理矢理な気もしますが(苦笑)。
この「土木の日」を記念したイベントが日本各地で行われたようですが、ここ神戸でも土木学会選奨土木遺産に認定されている「湊川隧道(みなとがわずいどう)」という明治時代に作られた日本初の河川トンネルの通り抜けイベントが毎年開かれています。「隧道」はトンネルのことなのだそう。まあイベントが開催されたのは 11月26日だったので、「土木の日」とは少し日にちがずれてるのですけどね。
「湊川隧道」は、神戸市立夢野の丘小学校の北西端から会下山(えげやま)公園の地下を通って 2000年に竣工した「新湊川トンネル」に接続しています。通り抜けイベントは、「湊川隧道」から「新湊川トンネル」に出たのち、親水エリアを通って長田商店街付近まで約 1.7km を歩くウォークイベントとなっています。今年で 10回目だというこのイベント、ちょうど予定も空いていそうだったので、私も参加してみることにしました。普段入ることは出来ませんからね。
■ 「湊川隧道」とは?
神戸を象徴する「六甲山系」では、戦国時代以降太閤秀吉が大阪城築城のために樹木の伐採を奨励したことから森林面積の減少が進んでいました。そこに明治維新からの兵庫(神戸)開港によって開発と人口増加による薪の需要が加わって乱伐が進み、明治初期には六甲山はハゲ山と化してしまいました。
これによって景観が悪化しただけでなく、明治の中頃には保水力の低下から大雨が降る度に土石流が発生するようになり、下流域では大きな被害が生じていたそうです。特に湊川流域では上流から流されてきた土砂が堆積し、堤防の高さが 6m にもなる ” 天井川 ” となって洪水の危険性が非常に高くなっていたそうです。この堤防は神戸と兵庫の町を分断し、経済的な障害にもなっていたのだとか。
明治 29年には堤防の一部が決壊して多数の死者・負傷者を出すに至り、六甲山の植樹と共に湊川の付け替え工事が本格化します。当初は「会下山」の南側に新たな川を掘り進む計画でしたが、氾濫を懸念する住民からの要望を考慮して会下山の下にトンネルを通す案に修正されました。
画像:湊川隧道保存友の会事務局
石井川と天王谷川の合流点にある「洗心橋」の上手で旧湊川を締め切り、「湊川隧道」を通して西へ大きく迂回させて長田神社八雲橋下手で苅藻川(かるもがわ)に合流させて東池尻の海岸へと注がせる流路に変えるという大土木工事となったようです。河川トンネルとしては日本初の試みだったのだとか。
画像:湊川隧道保存友の会事務局
現在は少し北に新たに「新湊川トンネル」が建造され、「湊川隧道」はその役目を終えましたが、土木遺産としての価値が評価されて「土木学会選奨土木遺産」に認定されました、また、2019年には国登録有形文化財としても登録されています。まだ現在のような重機や機械の無い時代の工事ですからね。ツルハシやノミで掘り出した土砂をトロッコや ” もっこ ” を使って人力で排出し、レンガを積んで作ったというのですからその労力が如何に大変なものであったかは容易に想像が付きます。
■ 「湊川隧道」に入ってみます!
右の写真は集合場所の夢野の丘小学校北側で受付を待っているところ。ネット申込みの場合は、送られてきた当選メールが参加証となるので、スマホで画面を見せるという形になっていました。
集合場所へすんなり行けるかちょっと不安でしたが、今は本当に便利ですね。スマホの Google Map のおかげで難なく到着することが出来ました。土地勘の無い場所へも手元の衛星ナビを見ながら迷わず行けるとはほんとうに凄い時代になったもんです。
私に割り当てられた見学時間は 11:30 からでした、少し早めに着いて待っていると続々と参加者の列が形成されていきます。でも会話を聞いているとなんだか遅刻組も混じっている様子。結構アバウトなんですかね?なんだか時間通りに余裕を持って来たのもちょっと馬鹿らしい(苦笑)。
この立派なレンガ造りの入り口から湊川隧道に入っていきます。普段は閉ざされているようですね。
ここはまだ隧道への通路のようなものです。比較的新しく作られたようですね。震災時の状況や隧道に関する資料などが展示されていました。所々にはボランティアの解説員の方も。
奥の照明の色が変わっている辺りからが隧道です。時間分散させていますが結構な参加者の数。
隧道内は温度変化が少ないですからね。所々でこのようにお酒の熟成をさせているようでした。
いよいよ隧道内部へ。どうですか?この雰囲気。坑内は心なしかひんやりしています。
しばらく進むとスクリーンが設置されており、県の土木の方が隧道の解説をして下さいました。結構興味深いお話だったので聞き入っていたのですが、後から後から続々と人が増えてきたので、これは全部聞いていると一気に移動が始まって写真撮り難くなるなということで途中離脱。
途中からレンガの積み方が変わっているのが分かりますでしょうか?側壁はレンガを長手だけの段、小口だけの段と一段おきに積む「イギリス積み」が、アーチ部分はレンガの長手のみを千鳥(ジグザグ)に積む「長手積み」が、天井の一部には「堅積み」という技法が分けて使われていて、地山からの土圧を均等に受け持つように工夫されているそうです。
「イギリス積み」は丈夫(高強度)で経済的(レンガの数を減らせる)ので、今回の隧道のような土木構造物や鉄道関連施設などでよく見られるそうです。「長手積み」は強度面で「イギリス積み」に劣りますが、壁の厚さを薄くすることができるため、アーチ構造のような曲率を持つ部分にレンガを積む一般的な技法となっているのだとか。「堅積み」は長手積みでレンガの目地が揃ってしまう場所に小口積みを挿入して強度不足になるのを防ぐ目的のもののようですね。
このほか隧道底部にもレンガを敷き詰めた上に凹状に加工された花崗岩の切り石が石畳にして並べられ、水流による洗掘摩耗への耐久性を高めるなど、随所に様々な工夫か凝らされているそうです。
途中になにやら壁面に埋め込まれているものを発見。腐食なのか摩耗なのか、判別する事が非常に困難になってしまっていますが、隧道の概略を示した銘板だった模様。
途中には撮影しやすいよう一段高くなった場所なども設けられていました。
隧道を抜け新湊川トンネルとの接続部へ。ここを降りると新湊川トンネルに出るようです。
こんな映画ありますよね?(笑)。
こうして見ると新湊川トンネルの大きさがよく分かります。これなら相当な大雨でも大丈夫そう。
ようやく外に出て来ました。解説を聞いていた時間も含め 1時間くらい経っていたでしょうか。
新湊川トンネルの吐口には「天長地久」の扁額が。「天長地久」は「老子」を出展とし、天地が永久に変わらず物事が永遠に続くことを意味する言葉なのだそうです。
あとは新湊川に沿ってゴールとなる長田商店街付近まで歩いていくだけです。雨水用の河川ということもあってか、思いのほか流れている水は綺麗でした。水鳥が居たりということはありませんでしたけどね。
新湊川から階段を上がればゴールです。アンケートに答えるとお土産の瓦煎餅を頂くことが出来ました。
広場を南に下れば地下鉄「長田」駅、更にもう少し南に行けば「高速長田」駅です。北に上がればすぐに「長田神社」が。この辺りの商店街はまだ昔ながらの雰囲気を残していますね。
■ 「Cucina Piccolino(クッチーナ・ピッコリーノ)」で昼食
隊道を抜け、アンケートに答えてお土産の瓦煎餅を頂くとちょうどお昼にいい時間。ということで、予め Google Map で目星を付けていたお店に食べに行ってみることにします。自転車で通過することはあってもゆっくりこの辺りを見て回るのは初めてです。
「Cucina Piccolino(クッチーナ・ピッコリーノ)」というピザとパスタのお店にお邪魔してみました。パスタは家でいくらでも作れますが、ピザは発酵させたり面倒くさくてなかなかそういうわけにもいきませんからね・・・。Google Map ではいまいち場所が分かりづらくお店を探してちょっとウロウロ。何のことは無い 1F にありました。
お店はカウンター席と奥に 2人掛けのテーブル席が 2つ。こじんまりとしていますが雰囲気は上々。頼めばメニュー外の料理も作ってくれるようです。夜は 2時までやってるそうなので、常連の方で盛り上がってるんでしょうね。この日は通り抜けイベントのせいもあってかかなり忙しそうでした。
この日は地下鉄&歩きだったので堂々と昼間っから酒が飲める(笑)ということで、ピッツァ・マルゲリータとグラスワインをオーダー。ピッツァ・マルゲリータはトマト、バジル、モッツァレラのみのシンプルなピザですが、たまに無性に食べたくなります。
「Cucina Piccolino(クッチーナ・ピッコリーノ」
住所 : 神戸市長田区長田町1丁目3-1 サンドール長田南館
営業時間 : (昼)11:30 ~ 14:30(夜)17:00 ~ 2:00
席数 : カウンター 9席、テーブル 4席
電話番号 : 070-1766-0141
定休日 : 水曜日・日曜日
備考 : 予約可、駐車場無し
昼食のあとすぐ近くにある長田神社にも参拝してきたのですが、長くなってしまったのでそちらは別の記事にてご紹介したいと思います。
今回の戦利品(?)。隧道がデザインされた瓦煎餅はイベント用に焼いているようですね。「湊川隧道」の通り抜けイベントは年に 1度だけですが、隧道入り口から 250mほどの区間については月に 1回公開されており、隧道内でのミニコンサートなども行われているようです。無料で見に行くことが出来ますし、月イチの公開は申込み不要ですので、時間が合いそうなら是非見に行ってみてください。興味深い体験になると思いますよ。